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日本植物学会第76回大会シンポジウムのご報告
加圧凍結法が切り拓く世界
去る2012年9月15日(土)日本植物学会第76回大会シンポジウムにおいて日本植物形態学会、綜合画像研究支援(共催)、日本女子大学バイオイメージングセンター(後援)により、シンポジウムを開催いたしましたのでご報告致します。
日 時 | : | 平成24年9月15日(土)14:30〜17:30 |
場 所 | : | 兵庫県立大学 姫路書写キャンパス シンポジウムF会場 番号1pSF |
共 催 | : | 認定NPO法人 綜合画像研究支援(NPO IIRS), 日本植物形態学会 |
後 援 | : | 日本女子大学バイオイメージングセンター(日本女子大学BIC) |
オーガナイザー | : | 鮫島正純(NPO IIRS), 大隅正子(NPO IIRS・日本女子大学BIC) |
プログラム
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日本植物学会第76回大会シンポジウム「加圧凍結法が切り拓く世界」のご報告
加圧凍結法による研究の日本における先駆のおひとりである澤口先生は、はじめにこの方法の理論と装置といった基本的なことから丁寧に解説されました。引き続きご自身の胃粘膜上皮細胞の研究の一端を紹介される中で、加圧凍結法が細胞の微細形態の保持にいかに優れているか、また、タンパク質分子の溶出が防がれることから免疫電顕法による分子の検出に威力を発揮することなどを、化学固定試料との比較で明瞭に示されました。さらに、IIRSの主要な業務の一つである共同利用ネットワーク(CUMNET)のご紹介もしていただきました。
次の齊藤先生は、植物細胞の試料作製における化学固定法、急速固定法、加圧凍結法の比較検討から、加圧凍結法が植物組織の固定に優れていることを話されました。一方で、加圧凍結法は装置の特性から、組織の極性を維持しなければならない研究には不向きな場合があることや、液胞に由来するバルブ構造の観察には成功していないなどの実例を紹介されました。唐原先生は植物の細胞分裂面を決定する仕組みについての研究を、加圧凍結法と電子線トモグラフィー法を組み合わせて解析することにより、分裂準備帯におけるネガティブなメモリーにエンドサイトーシスがかかわっているという興味ある結果を導き出されていました。野口先生は、加圧凍結試料による葉緑体包膜の観察結果を示されるとともに、さらに多種類の藻類と加圧凍結法の“相性”を検討され、良好な像が得られない場合があることも示されました。5番目の許斐先生のご研究では、分裂酵母を加圧凍結し、その後に凍結置換固定法、フリーズレプリカ法、極低温LVSEM法を駆使されていました。それにより得られた細胞骨格構造や細胞膜たんぱく質の挙動解析の見事な結果を報告されました。最後の演者である伊藤先生には、はじめに理論と装置を含めて「加圧凍結」を解説していただき、さらに研究目的に応じた、加圧凍結後のさまざまな試料作製法のわかりやすい説明が続きました。
質疑応答も活発に行われ、予定していた時間を20分延長するほどでした。私にとって印象深かったのは、加圧による高圧条件下で形成される氷(非結晶状態)の特性が、微細構造にどのような影響を及ぼすのかが、未解決の問題であるという点でした。単に「固定がうまくいった、いかなかった」で済ますのではなく、「高圧条件下の氷」における細胞器官や生体分子の微細構造といった観点から、結果を注意深く吟味することにより、新たな世界が開けるかもしれないと感じました。
本シンポジウムが開催された大会初日の午後には、シンポジウムと一般口演が10会場で同時進行していましたが、本シンポジウムの参加者は常時50名で、延べ70名程度の参加がありました。かなり絞り込んだテーマにしては多くの方に来ていただけたのではないかと思います。電子顕微鏡法を必要とする、あるいは興味を持つ研究者や若手が、潜在的にかなりおられることの反映と思われます。そのような方々への研究支援と情報提供を目的とする認定NPO法人綜合画像研究支援の役割の重要さを改めて実感いたしました。
最後になりましてが、本シンポジウムの講演を快くお引き受けくださいました先生方、共催してくださった日本植物形態学会、そして日本女子大学バイオイメージングセンターのご後援に深く感謝いたします。
写真集
![]() 澤口 朗先生 |
![]() 斎藤 知恵子先生 |
![]() 唐原 一郎先生 |
![]() 野口 哲子先生 |
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許斐 麻美先生 |
伊藤 喜子先生 |
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澤口 朗先生と鮫島オーガナイザー |