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日本植物学会第77回大会シンポジウムのご報告

新世代の画像情報が切り拓く世界

認定NPO法人 綜合画像研究支援 鮫島正純

分子の局在をイメージングする技法の発達が、今日の生命科学を発展させてきたが、現在では広範囲な、定量的な、高解像度の、あるいは3Dの新たな画像情報が求められている。本シンポジウムは、そのような研究として、電子顕微鏡画像の広域取得法と自動画像解析、同位体顕微鏡と二次イオン質量分析による植物組織の元素分析、2光子顕微鏡による光イメージングを駆使した生体レベルでの高解像度な機能解析を紹介し、植物学研究への今後の展開について議論を深めることを趣旨に、以下のプログラムで開催した。

日  時 平成25年9月14日(土) 8:45〜11:45
場  所 北海道大学 高等教育推進機構 N棟/E棟 J会場
主  催 日本植物学会
共  催 認定NPO 法人綜合画像研究支援、日本植物形態学会
後  援 日本女子大学バイオイメージングセンター
オーガナイザー 鮫島正純(綜合画像研究支援)、
大隅正子(綜合画像研究支援、日本女子大BIC)

プログラム

(敬称略)
はじめに
鮫島正純(綜合画像研究支援)
1. 高圧凍結技法を取り入れた広域透過電顕像撮影システムの開発とその応用
豊岡公徳1、佐藤繭子1、朽名夏麿2、永田典子3
1理研CSRS、2東京大・院・新領域、3日本女子大・院・理)
2. 電顕画像における注目構造の自動検索法の開発
桧垣匠1、朽名夏麿1、馳澤盛一郎1,21東京大・院・新領域、2JST・先端計測)
3. 同位体顕微鏡システムを用いた植物組織内での元素の直接可視化
小笠原希実1、坂本直哉2、伊藤利章3、圦本尚義2,4、内藤哲1,5、高野順平1
1北大・院農、2北大・創成IIL、3北大・生物組織構造解析センター、4北大・院理、5北大・院生命)
4. 二次イオン質量分析法による樹木内の炭素移動の可視化
竹内美由紀 、磯貝明(東大・院・農)
5. 2光子顕微鏡による深部イメージングで観えてきた植物生殖の実態
水多陽子1,2、栗原大輔1,2、東山哲也1,2,31名大・院・理、2JST・ERATO、3名大・WPI-ITbM)
6. 2光子顕微鏡を用いた生体脳深部観察法 -植物組織・細胞への応用可能性
根本知己1,2、川上良介1,2、日比輝正1,2、大友康平1,21北海道大学電子科学研究所、2JST CREST)
7. 総合討論

講演概要

電子顕微鏡が最も不得意とするところは、「高倍率による広領域の観察」であった。豊岡先生は、広域に渡り数千〜数万枚の高解像度TEM像を自動撮影するシステムを開発し、さらにその撮影システムと自動結合プログラムを連動させることで、数十ギガバイトの1枚のデジタルTEM像の構築に成功している。高圧凍結技法を用いて固定した根端組織切片に応用した例を報告され、これにより、「電子顕微鏡を用いた高解像度による広領域の観察」の自動化が可能となったことを示された。このような電子顕微鏡画像が含んでいる膨大な情報を読み取ることには経験が必要であり、「見る目」が無ければ情報はゼロに等しい。ビックデータとしてのバイオ画像群の中から重要な知見を発掘する手法の重要性に着目した桧垣先生は、これまでに開発した蛍光顕微鏡画像などの画像を目的別に評価・分類することのできる画像解析系CARTA(Clustering-Aided Rapid Training Agent)を電子顕微鏡像の解析に応用し、注目構造の半自動的な検出法を確立された。

二次イオン質量分析法 (Secondary Ion Mass Spectrometry: SIMS)では、一次イオンビームを試料に照射し、試料表面からスパッタリングで放出される二次イオンを質量分析計により質量分離して測定する。SIMSによる分析の特徴は、同位体を含むすべての元素が分析可能であること、高質量分解能、高感度であることなどが挙げられる。この技術を発展させ、物質中の同位元素の3次元分布のイメージングを可能とした装置が同位体顕微鏡である。いずれも試料作製には電子顕微鏡用の方法を改良して適用できる。小笠原先生は、植物の必須微量元素であり、従来の元素分析手法での直接可視化が難しかったホウ素の、シロイヌナズナ組織における分布を、同位体顕微鏡を用いて直接可視化することに成功したことを示された。竹内先生は、炭素が光合成によって取り込まれて木部へ堆積する過程の解明を目指し、SIMSを用いて樹木木部における標識13Cの挙動を明らかにされた。

2光子励起レーザー顕微鏡(2光子顕微鏡)は、低侵襲性や深い組織到達性といった特徴を持つことから、3Dライブイメージング法として定着しつつある。水多先生は、雌しべ深部で起きる植物の受精過程、特に花粉管の挙動の解明を目指して、2光子顕微鏡を用いた長時間ライブイメージングで解析し、伝達組織内を伸長していた花粉管が、突然胚珠へと伸長方向を変える花粉管ガイダンスを雌しべ内で捉えることに世界で初めて成功した。さらに、植物の組織内で自家蛍光を排除し、より深部まで観察するのに適した蛍光タンパク質の種類や2光子顕微鏡の励起波長の検討結果も報告された。

3Dライブイメージング法が最も求められている研究分野の一つは、脳・神経系である。根本先生には、はじめに2光子顕微鏡の原理と特徴を分かりやすく説明していただいた。ひき続き、波長1030 nmの新規ピコ秒光源を新たに励起光源とした新規”in vivo”2光子顕微鏡を用いて、脳表から約1.4 mmという世界最深部の断層イメージングに成功された例を示された。この顕微鏡により、生きたマウスの状態で、大脳新皮質全層及び、海馬CA1ニューロンを観察することが可能になった。さらに、新しいレーザー光「ベクトルビーム」を励起レーザー光源として用いることで、共焦点顕微鏡や2光子顕微鏡の空間分解能の向上に成功したことや、時間分解能の向上を目指してニポウディスク式の2光子顕微鏡の構築を行い、これを用いて植物細胞の分裂過程の分子動態を3次元的に観察した例などの最新のライブイメージングを紹介された。

本シンポジウムが開催された大会2日目の午前には、シンポジウムと一般口演が11会場で同時進行していたが、本シンポジウムの参加者は常時70名で、延べ80名以上の参加があり、かなり絞り込んだテーマにしては多くの方に来ていただけた。質疑応答も活発に行われ、予定していた総合討論に時間を割けなかった。これらのことは、画像情報に関して興味を持つ研究者や若手が、潜在的にかなりおられることの反映と思われる。


写真左より大隅正子オーガナイザー、竹内美由紀先生、水多陽子先生、小笠原希実先生、
根本知己先生、桧垣匠先生、豊岡公徳先生、鮫島正純オーガナイザー

本シンポジウムは、IIRSの本年度の事業、新技術振興渡辺記念会の平成24年度下期科学技術調査研究助成金による課題「最新のイメージング技術を用いたライフサイエンス研究の近未来的な潮流の調査」の一環として行った。

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