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日本植物学会第82回大会シンポジウムのご報告
電子顕微鏡で観る多様な生命現象

去る2018年9月15日(土)日本植物学会第82回大会シンポジウムにおいて、日本植物形態学会と綜合画像研究支援の共催によるシンポジウムを開催しましたので、ご報告致します。

日 時 2018年9月15日(土) 9:00〜11:40
場 所 広島国際会議場
主 催 日本植物学会
共 催 日本植物形態学会、認定NPO法人 綜合画像研究支援(NPO IIRS)
オーガナイザー 豊岡 公徳(理研・環境資源科学研究センター)
大隅 正子(NPO IIRS、日本女子大学)

プログラム

(敬称略)

はじめに
豊岡 公徳(理研・環境資源科学研究センター)
1.静と動:電子顕微鏡とmotion analysisで読み解くユーグレナの光運動反応
加藤 翔太 (帝京大学・理工・バイオ)
2.フリーズフラクチャーレプリカ法で観る渦鞭毛藻類の細胞外被形成の過程
関田 諭子 (高知大・院・黒潮圏)
3.電顕3Dとハイパースペクトルで見るヘマトコッカス藻のカロテノイド分布とその動態
大田 修平 (国立環境研)
4.高圧凍結法を用いた藻類・植物の電子顕微鏡解析
佐藤 繭子 (理研・環境資源科学研究センター)
5.イネ種子貯蔵タンパク質グルテリンの小胞体から液胞への細胞内輸送機構の解明
福田 真子 (九州大・院・農)
6.木材細胞壁における非セルロース性多糖類の局在
粟野 達也 (京都大・院・農)
おわりに
大隅 正子(NPO IIRS、日本女子大学)

主催者よりの報告

日本物学会第82回大会シンポジウム「電子顕微鏡で観る多様な生命現象」のご報告
豊岡 公徳(理化学研究所・環境資源科学研究センター、IIRS会員)

蛍光イメージングなど特定分子を可視化するための様々な光学顕微鏡技術が発展した現在でも、電子顕微鏡でしか捉えることができない多様な生命現象があります。本シンポジウムでは、単細胞藻類から樹木まで多様な生物材料を対象とし、様々な電子顕微鏡技術を駆使して微細構造レベルの解析を行なっている若手研究者の方々にご講演いただき、その解析例を紹介して頂きました。

前半では微生物、後半では植物を中心に、微小な試料から巨大な試料へと大きさ順でお話を頂きました。まず、帝京大学の加藤 翔太先生からは、ユーグレナの光運動反応のお話を伺いました。電顕解析により、変異体には眼点顆粒が明らかに異なる構造体を見出しておられました。続いて、高知大学の関田 諭子先生からは、現在では希少な技術となったフリーズフラクチャーレプリカ法で渦鞭毛藻類の細胞外被形成の観察についてと、鎧板内側の表層微小管の微細構造について、お話を伺いました。環境研究所の大田 修平先生からは連続切片法による電顕3D構築法でヘマトコッカス藻のカロテノイド分布と動態についてお話頂き、細胞内の微細構造を立体的に評価することにより、環境の変化による細胞内構造の違いを明らかにされました。理研 環境資源科学研究センターの佐藤 繭子先生からは、高圧凍結法を用いた藻類および植物の電子顕微鏡解析と、凍結技法の基本からその応用例について、ご紹介して頂きました。九州大学の福田 真子先生からは、免疫電顕と微細構造解析を組み合わせ、イネ種子貯蔵タンパク質グルテリンの小胞体から液胞への細胞内輸送機構について、ご紹介していただきました。最後に、京都大学の粟野 達也先生から、木材細胞壁における非セルロース性多糖類の局在解析についてお話を頂きました。

講演者の皆様にはとても綺麗な電顕写真に富んだ研究発表を頂き、各講演では時間を超過するほど質疑応答が活発で、参加者の皆様との間で大変有意義なディスカッションができました。本シンポジウムは二日目の午前9:30からという早い時間帯で、しかも強力なシンポジウムが並行した中での開催でしたが、100名を超える参加者にお出で頂き、盛況のうちに終えることができました。

本シンポジウムの講演内容に関しては、日本植物形態学会が発行するPlant Morphology誌のVol. 31 (2019年5月刊行予定)において、演者の皆様にミニレビューを執筆して頂く予定ですので、ご期待ください。最後になりましたが、本シンポジウムの講演を快くお引き受けくださいました演者の皆様に深く感謝いたします。

参加者から頂いた感想(IIRS会員)

IIRSとの共催シンポジウムに参加して
峰雪 芳宣(兵庫県立大学教授・日本植物形態学会会長)

この10年ほぼ毎年、日本植物学会の大会でIIRSと日本植物形態学会が共催のシンポジウムを開催しています。これらのシンポジウム開催の主旨は、“生命現象を分子の言葉で語るときに、形を考えることも大事である”ということを啓蒙、普及することにあるのではないかと思っています。過去のシンポジウムでは生命現象を様々な顕微鏡法を駆使して解明することを主題にしたシンポジウムもありましたが、今回は植物の生命現象解明に“電子顕微鏡”がどのように使用されているかに主題をおいた発表でした。植物分野での電子顕微鏡利用サービスが国内で一番充実していると思われる理研の豊岡先生がオーガナイズしただけあって、現在実際に電子顕微鏡を使用して研究している中堅から若手の研究者を集め、皆さんの現在進行中のお話と問題点が聞けたことは有意義だったと思います。また、最後の豊岡先生の挨拶で、植物学会の直前にシドニーで開催されたInternational Microscopy Congressの報告がありました。これは、若手の電子顕顕微鏡を使っている研究者には刺激になったと思います。シンポジウム最初の3題は藻類の話で、帝京大の加藤さんのユーグレナ走性の研究では、ライブイメジングと電子顕微鏡をうまく組み合わせた解析が、高知大の関田さんの渦鞭毛藻の細胞外皮の形成過程の研究では、超薄切片の情報がフリーズフラクチャー解析に上手に取り入られて解析されている点が、また、環境研の大田さんのヘマトコッカス藻のカロテノイドの3D分布の研究は、今後バイオエネルギーの解析に貢献が期待できそうな3D解析が面白いと思いました。次の2題では、理研の佐藤さんが藻類と陸上植物の凍結技法について詳しく解説された後、九大の福田さんがイネ種子を使って免疫電子顕微鏡法を中心とした研究について紹介されました。この2つの講演は、今後植物材料の凍結、あるいは免疫電顕を行いたいと考えている研究者には、大変参考になった講演だったと思います。最後の講演は、陸上植物といっても、イネやシロイヌナズナと違い、電子顕微鏡観察が比較的難しいとされる木材の電子顕微鏡を使った研究で、木材を扱ったことのない私にとっては、紹介される免疫電顕写真には感心するばかりでした。本シンポジウムの講演者の多くの方々は、日本植物形態学会発行のPlant Morphologyに総説を書いて頂くことになっていると思います。来年のPlant Morphology誌の発刊が楽しみです。

日本植物学会第82回大会シンポジウム「電子顕微鏡で観る多様な生命現象」のご報告
唐原 一郎(富山大学・大学院理工学研究部)

電子顕微鏡は、実際に試料を作って顕微鏡を動かして試料の像を見たことがある人にしかわからない発見の興奮と感動をもたらします。そしてこれを用いた観察は、圧倒的な解像度の高さゆえに、生命現象のメカニズムの解明が分子レベルに近づけば近づくほど、そのニーズは高まりこそすれ、低まるということはありません。電子顕微鏡自体はKnollとRuskaによって発明されて以来、早くも1世紀が近づきつつあり、その技術は成熟したかに見えますが、昨年、クライオ電子顕微鏡の開発にノーベル化学賞が授与されたように、その技術は目覚ましい進化を遂げています。また一昨年には、ノーベル生理学・医学賞を受賞された大隅良典先生のオートファジーの仕組みの発見に、電子顕微鏡観察が決定的に重要な役割を果たしたことからもわかるように、形態学・解剖学から構造生物学まで常に革新的な知見をもたらしてきました。電子顕微鏡とそれがもたらす成果をめぐる歴史的なうねりを一番良くご存知の大隅正子先生と、新しい電子顕微鏡技術と植物分野へのアプリケーションを現在日本で最もよくご存知の豊岡公徳先生による、まさに機運を捉えられた、タイムリーなシンポジウム企画でした。

加藤翔太先生の講演は、コンピューターを使ったmotion analysisで光運動反応の解析と、ノックダウン技術の利用と電子顕微鏡による微細構造の解析により、ユーグレナの眼点の機能について長年の疑問に答える、興味深いお話でした。関田諭子先生の講演は、渦鞭毛藻類が作る非常にユニークな細胞外被がどのようにして形成されるのかをフリーズフラクチャーレプリカ法で観察されたお話で、藻類の生態に疎い私にとって、硬いよろい板を作っては脱ぎ捨てる現象自体がその巧みな仕組みも含めて「目から鱗」のような驚きでした。大田修平先生の講演は、電子顕微鏡を用いた巧みな三次元微細構造解析のお話は、これまでにもこのシンポジウムのシリーズでお聞きしていましたが、今回はピクセルごとに全スペクトル情報を捉えて、色素ごとに分離できる、ハイパースペクトルカメラの威力のすごさを、実感させられました。佐藤繭子先生の講演は、新しい電子顕微鏡技術のアプリケーションに携わる専門家として、化学固定法と凍結技法の基礎も含め実例を示しながら解説をして下さり、大変勉強になるものでした。福田真子先生の講演は、私達が毎日食べているコメの食味に深く関わる貯蔵タンパク質グルテリンの細胞内輸送に関する話題で、こういったことが解明されてくると更に美味しいコメの開発につながることが予感され、美味しい日本のコメを支える研究の基盤の厚さを改めて感じさせるお話しでした。粟野達也先生の講演では、古くから知られる、あて材形成の仕組みを、基礎から最新の知見まで、解説して下さり、重力影響の観点から興味を持つ私にとって、大変興味深く勉強になるものでした。

聴き終えた実感として、いずれのお話しも電子顕微鏡観察が研究の鍵を握るもので、形態解析の王道を行くものと改めて感じさせられました。オーガナイザーの先生方およびご講演下さった先生方に深く感謝いたします。

日本植物学会第82回大会シンポジウム感想
永田 典子(日本女子大学教授)

「電子顕微鏡で観る多様な生命現象」というシンポジウムのタイトルに表れているように、「電子顕微鏡」を用いた研究を紹介したいという意気込みとこだわりを感じる内容だった。ライブイメージング流行の昨今、顕微鏡のシンポジウムといえば、先ず蛍光というイメージが先行している。一方、電子顕微鏡と銘打っている場合、特別に極めた技術紹介になりがちかもしれない。そのような中で、本シンポジウムで紹介されたのは、難し過ぎず、かといってありきたりでもなく、これなら自分の研究にも電子顕微鏡を使ってみようかなと多くの人に感じてもらえる、まさに「ちょうどよい」研究の紹介であったと思う。

はじめの加藤氏による発表は、ユーグレナの光運動反応に関するものであった。光受容に機能すると予想される眼点、および眼点の形成に関わるカロテノイドの蓄積を観察する上で、電子顕微鏡が大きく貢献した。2番目の演者の関田氏は、フリーズフラクチャレープリカ法などを駆使して、渦鞭毛藻類の細胞外被の詳細な形成過程を明らかにした。3番目の演者の大田氏は、ヘマトコッカス藻を丸ごと三次元構築し、独特なカロテノイド分布とその動態を明らかにした。ここまでの前半3題は藻類を対象としたものであり、それぞれに工夫された手法を用いた見事な研究紹介であった。4番目の佐藤氏には、高圧凍結法を用いた色々のお役立ち情報を紹介していただけた。5番目の演者の福田氏は、イネの胚乳という難しい試料を用いて、貯蔵タンパク質の細胞内輸送に関わる研究を発表された。最後の粟野氏による発表は、これまた難しい試料である木材の細胞壁に関する研究で、非セルロース多糖類の観察に電子顕微鏡を用いたものであった。このように、後半3題は高等植物を対象としたもので、しかも難しいとされる試料でも電子顕微鏡を有効に用いることができると証明するものであったと思う。

今後もこのようなシンポジウムを通じて、「電子顕微鏡」は決して敷居の高い装置ではなく、今はより一層使いやすい研究手法となっていることを、多くの方に知ってもらいたいと願っている。

講演者から頂いた感想

植物学会第82回大会シンポジウム「電子顕微鏡で見る多様な生命現象」に参加して
福田 真子(九州大学大学院・農学研究院・植物遺伝子資源学分野)@ワシントン州立大学より

このたび、初めてシンポジウムの講演依頼を受け、引き受けさせていただきましたが、私の準備不足で満足のいく発表はできず、不完全燃焼でした。お声かけしてくださった豊岡さんはじめ、大隅先生に申し訳ない気持ちです。反省点は多々ありますが、それらひっくるめて私にとってシンポジウムの参加はとても有意義であったことは間違いありません。

私はこれまで主にイネ種子のタンパク質顆粒を電顕で観てきました。電顕写真1枚を撮るまでにどれだけの工程を経ているかを知っているが故に、研究発表で電顕写真のスライドがあれば、電顕写真の完成度の高さに観入ってしまいます。私だけでしょうか?

藻類やシロイヌナズナ、どの生物種の細胞を観ても、その基本構造は同じで、生命の共通性を実感できます。電顕写真は昔から今に至るまで白黒のままですから、どの分野のどの年代の研究者にも受け入れやすいデータであることも間違いありません。電顕は、細胞内のごく一部の領域をクローズアップして観るため、まさに真実を映し出せるすばらしい技術といえます。ただ、その真実性、正確性は観察者にゆだねられると思っています。未知な構造にも出くわしますし、実験によるアーティファクトを観ていることもあります。まだまだ細胞内で捉えることができない現象も多くあるかと思います。電顕技術の進歩により、かなりの現象を捉えることが可能となりましたが、まだアナログ感を捨て切れません。観察者の技術と経験は、データ解釈の信頼性に比例しているようにも思います。これからも、素の心で電子顕微鏡と向き合い、様々な生命現象を捉えるべく、精進していきたいと気持ちを新たにしました。

ここ最近、良いジャーナルに採択されるために、と多くの方々から電顕観察の依頼を受ける機会が多くなりました。電顕データの価値が高まってきている表れかもしれません。電顕は私の研究人生の中で一手法としてだけでなく、多くの研究者とのつながりを作ってくれました。シンポジウム主催者の豊岡さん、発表演者の佐藤繭子さん、粟野先生も、電顕をやっていたからこそ出会えた方々です。私に電子顕微鏡観察の術を一から教えてくださった先生に改めて感謝の念を抱くとともに、今も尚電顕を通して多くの研究者と真実を追究できる喜びを実感しました。大隅先生にはシンポジウムで発表させて頂くという大変貴重な機会を頂き、深く深くお礼申し上げます。

本当にありがとうございました。

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