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認定NPO法人 綜合画像研究支援
第18回アカデミックサロン(意見交換会)
「産業界とアカデミズムの接点を求めて“技術開発と人材育成”」

去る2018年11月10日(土) 第18回アカデミックサロン(意見交換会)を開催しましたので、ご報告致します。当日は、アカデミックサロン内にて「グローバルに電顕業界で活躍する若手博士に映る姿」と題して荒牧 慎二様によるご講演頂きました。

日 時 2018年11月10日(土) 16:00〜18:00
場 所 東京大学武田先端知ビル5階 武田ホール

主催者からの感想

博士進学とキャリアバス

IIRS理事 安永卓生(九州工業大学・大学院情報工学研究院)

現在、博士課程の入学者が減少し始めて、早15年近く(H16年度〜)が経とうとしている。もっとも多かったH15年(2003年)の18千人超であった時期からみれば、H30年度(2018年)には、社会人博士が2.5千名(61%)以上増えたのに対して、修士課程からの進学者は5.1千名(48%)以上も減っている。この傾向は、国公私立で変わらないが、地元密着型と呼ばれる公立において顕著である。また、この進学者の減少傾向は修士課程でもみられるが、学部からの進学者は8.8%減、社会人が2.9%減と大きいものの、留学生の75%増で支えることで、全体として2.1%減となっている。大学学部の入学者数が微増(3.9%、 24千人)であることを考えれば、修士課程以上、特に、博士課程への進学意欲の減少は著しい。

社会人博士が増えており、その意図の調査(「社会人の大学院教育の実態把握に関する調査研究(H21年度)」)によれば、最先端研究のテーマや特定分野を深く追求することへの興味に加え、研究推進能力を身に付けることが必要であるということが示されている。この変化の激しい時代においては、リカレント(学び直し)としての博士課程の学びの社会での必要性が読み取れる。一方で、そのことがストレート進学へとは結びつかない問題点はどこにあるのだろうか。上述の資料にある大学側の意図が、必ずしも学生の要求に対応できていないこともあるだろうが、加えて、博士課程修了後のキャリアパスがみえにくく、経済的な負担の問題や企業への就職の困難さなどが調査(中教審・大学分科会・大学院部会(第81回)資料)からみえてくる。

今回、大学院・博士課程を終えて、海外企業へのキャリアを選択した、若手研究者であり、かつ、企業技術者である荒牧慎二博士を迎え、博士課程への進学の意義や、そのキャリアパスについての話題を提供してもらうこととなった。現在、海外企業技術者では、その流動性の点からもしばしばみられる、「企業に足をおきながら、アカデミアでのポジションも兼任し、研究支援とともに研究を進める」ことができるキャリアを得ている。彼のプレゼンテーションにみられる考え方やキャリア選択の中から、博士進学の意義を改めて考え直す機会になれば幸いである。

参加者から頂いた感想

博士号の対価

東美貴子(国立研究開発法人科学技術振興機構)

我が国の科学技術イノベーションの基盤である研究人材。

仕事柄、人材育成等を含めた科学技術情報に日々触れているところ、「技術開発と人材育成」のテーマに惹かれて、初めてアカデミックサロンに参加しました。話題提供者の一人、TVIPS JAPANの荒牧慎二博士による「グローバルに電顕業界で活躍する若手博士に映る姿」と題した講演は、邂逅というべきか、研究環境整備や博士のキャリアパスの観点から、得るものが多くありました。

荒牧博士は、九州工業大学でクライオ電子線トモグラフィ法を使用したin vivo細胞骨格タンパク質構造解析をテーマに学位を取られた後、TVIPS社へ入社されました。TVIPS社は、マックス・プランク研究所で研究をしていたHans R. Tietz博士により1987年にミュンヘン近郊で創業された会社であり、総勢17名の小数精鋭部隊でCMOSカメラやソフトウェアの開発で世界的に展開する「尖った」会社であるとの印象を持ちました。講演では、博士の経験が役に立っていることや、現在の仕事で役に立っている知識等、「博士のメリット」についてのお話があり、自身の体験を重ねるのは大変烏滸がましいと承知しつつも、数年前に巷で流行りの「リカレント教育」として、多くの方々のご支援の下で博士号をいただいたことを思い出し、荒牧博士のご経験に共感を抱いた次第です。残念ながら、お話にあった「企業におけるR&Dで役に立つ」、ないし「修士(学部)卒では今の仕事はできない」といった事項は私自身に重ならないものの、私を含め一般的に博士号取得のビフォー・アフターは、専門性を高めることを含めた、社会の様々な場で生かせる汎用可能なスキル ― Transferable skills[1]の向上ではないかと信じています。

折り良く、今夏、文部科学省の科学技術・学術審議会人材委員会・中央教育審議会大学分科会大学院部会合同部会において、我が国の研究力強化に向けた研究人材の育成・確保に関する論点整理が報告されました。報告[2]には、論文数に関する我が国の国際的地位の質的・量的低下や博士課程進学者の減少、若手研究者の不安定な研究・雇用環境の懸念等、昨今メディアにも話題になった事項が記載されています。私自身、博士課程(後期)に進学しなんとか学位を取得するまでに、検定料、入学料約28万円に加え、3年間の授業料約156万円とした、総計約200万円近くを負担した記憶があります。このような金銭的および時間的投資に対し、その対価となるTransferable skillsの向上は計り知れないものがあったと思います。前述の論点整理にもありましたが、未だ多くの博士課程修了者は、十分な教育と経験を積んだにもかかわらず、受け皿となる社会(アカデミアや産業界等)とのマッチング促進が求められています。大学院へ進学し専門性を高めつつ社会で活かせるTransferable skillsを備えた人材自身、何も研究職だけに出口を絞る考えを柔軟化してはいかがでしょうか。

今回の荒牧博士のご経験談は、一抹の清涼感を与えるものであり、博士号を取られた科学技術イノベーション人材の活躍の場が多様性をもって益々広がること期待するばかりです。
以上

[1]
Transferable skillsとは他分野でも通用する移転可能スキルであり、研究開発分野の人材については、「A.知識と知的活動」、「B.個人の効果」、「C.研究管理と組織」、および「D.責任、影響力、およびインパクト」の4つの大項目を其々「A-1.知的基盤」、「A-2.認知能力」「A-3.創造性」等とした12の細目で構成する英国の事例等が挙げられる(”How to make the most of transferable skills”, NATUREJOBS, 8 oct 2012)。
[2]
文部科学省科学技術・学術審議会人材委員会website
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu10/index.htm

講演

グローバルに電顕業界で活躍する若手博士に映る姿
Tietz Video and Image Processing Systems GmbH TVIPS Japan G.K.

荒牧 慎二

近年、日本における課程博士の人数は減少傾向にある。修士課程修了者の博士課程への進学率は、平成 7年において各分野の平均(文系・理系を含む)が17%程度であったのに対し、平成29年ころで 9%まで減少している〔1〕。原因の一つとして、もちろん少子化が挙げられるが、もう一つの理由として、博士課程修了後の進路の狭さである。平成30年の博士号取得者就職率は、ポストドクタを除いて、正規雇用および非正規雇用を含めて68%程度であり、正規雇用に限ると53%と〔2〕、学部卒業者や修士修了者のそれと比較して低い数値である。さらに、いわゆる民間企業へ就職した割合は、工学系では割合高く30%で、理学系では15%である。

本発表では、博士号取得後に、科学用カメラメーカへと就職した、少数派の博士号取得者のキャリアパス一例として、企業で働く中で私個人が感じた、博士号を取得する優位性について述べたい。

私が働く、TVIPS GmbH は、透過型電子顕微鏡用のデジタルカメラを研究開発および、製造するドイツ・ミュンヘン近郊を拠点とするメーカであり、30余年この分野に貢献してきた。TVIPS GmbH へ所属する前は、透過型電子顕微鏡とクライオ電子線トモグラフィ法を用いて、細胞内のタンパク質構造解析に従事していた〔3〕。実際のところ、現在、主な業務としているCMOSセンサに関する知識はほとんど持ち合わせていなかったが、博士研究を通じて付随的に獲得してきた電子顕微鏡に関する技術や知識、ユーザとしての意見や考え方は、今の業務でも大きく役に立っていると感じている。さらに、学術的なことだけでなく、英語の文献を読む習慣、英語でのコミュニケーションに対して感じる抵抗感の低さも、学士・修士で卒業した場合と比較して、大きなアドバンテージではないかと考える。また、欧米諸国で働くことを考えると、欧米では博士号取得後に企業へ就職することは一般的であり〔4〕、TVIPS GmbHにおいても、全社員の約半数ほどは博士号を取得している。こうした環境の中で、彼らと日常的に意見交換をしたり、一緒に働く上で、博士研究を通じて培われてきた土台は重要であると感じた。

以上、私が学位取得後、民間企業で働いて感じた、博士号の意義である。これを通じて、アカデミックサロン(意見交換会)の趣旨の通り、学界と産業界の垣根を超えた、博士号の意義について、そして博士課程への進学者数減少に関する議論の種となれば幸いである。

[1]
文部科学省 学9校基本調査/平成30年度(速報)『参考資料』
[2]
文部科学省 学校基本調査/平成30年度(速報)『大学院の専攻別 状況別 修了者数』
[3]
Aramaki,S.et al.,(2016). Filopodia formation by crosslinking of F-actin with fascin in two different manners. Cytoskeleton(Hoboken) 73,pp.365-374
[4]
文部科学省 DISCUSSION PAPER No.111『民間企業における博士の採用と活用』
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