お知らせ
<< お知らせ一覧へ戻る

第41回日本分子生物学会年会フォーラムのご報告
細胞の中のクロマチンの動きを見る

2018年11月28日(水)、第41回日本分子生物学会年会において、綜合画像研究支援が企画しましたフォーラムを以下のように開催しましたので報告します。

演  者 前島 一博 (国立遺伝学研究所)
日  時 2018年11月28日(水曜日)19:15〜20:45
会  場 第4会場 (パシフィコ横浜 3F 303)
オーガナイザー 登田 隆(広島大学大学院先端物質科学研究科 分子生命機能科学専攻教授 広島健康長寿研究拠点 (HiHA))
川本 進(認定NPO法人綜合画像研究支援 理事/千葉大学真菌医学研究センター 客員教授・横浜市大医学部 客員教授)

プログラム

19:15〜19:20 趣旨説明
登田 隆(広島大学大学院先端物質科学研究科 分子生命機能科学専攻 広島健康長寿研究拠点 (HiHA))
川本 進(認定NPO法人綜合画像研究支援・千葉大学・横浜市立大学)
19:20〜20:30 細胞の中のクロマチンの動きを見る
前島 一博(国立遺伝学研究所)
20:30〜20:45 総合討論とまとめ

登田 隆(広島大学大学院先端物質科学研究科 分子生命機能科学専攻教授 広島健康長寿研究拠点 (HiHA))

前島一博教授(国立遺伝学研究所)は、現在爆発的なペースで進展している『染色体・クロマチン生物学』分野の最先端を疾走する気鋭の研究者である。本フォーラムは、午後7時15分開始という、遅い時間帯設定にもかかわらず、多数の熱心な聴衆で会場が埋まり、和やかな中にも真剣な雰囲気を保ちつつ、前島教授の講演が始まった。

前島博士はまず、数年前『染色体・クロマチン生物学』研究分野に大きな波紋を投げかけた“30nm繊維クロマチンは細胞の中には存在しない”という衝撃的な結果について紹介された。ゲノムDNAは、細胞内ではヒストン8量体と相互作用して、ヌクレオソームと呼ばれる構造をとる。一つのヌクレオソームあたり146 bpのDNAがヒストン8量体に巻きつき、それが糸状につながっているように見える(10nmクロマチン繊維、“beads in a string”と表現される)。従来は、10nm繊維を構成するヌクレオソーム同士がさらに規則的にからまり合い、その結果、30nm繊維からなる高次クロマチン構造が構築されると信じられていた。ところが前島博士は、30nm繊維はin vitro実験系のアーチファクトであり、in vivoで実際には存在せず、細胞内では約1,000個のヌクレオソームが局所的・空間的に相互作用することによって形成されるより、柔軟かつダイナミックなドメイン(小領域)が高次構造体として形成されることを証明した。

次に、前島博士は単一ヌクレオソームの動態を生細胞の中で可視化するという最新の成果を、自作のヌクレオソームモデルを用いて、その折り畳み様式を実際に示しながら、聴衆に分かりやすく説明した。この実験系は、最先端の蛍光顕微鏡観察技術とデータ解析ソフトウエアを駆使して初めて可能となったもので、世界で唯一のシステムである。さらに博士は、数理学者との共同研究によって可能となった、ヌクレオソームドメイン構造体の数理モデリングにも言及した。本技術によって、約1,000個のヌクレーソームが150-200nmのドメインを形成しつつ、細胞内-核膜周辺と核質内部-でダイナミックに動く様子が可視化された。講演はこの後、ヌクレオソームドメイン動態と遺伝子転写の関連、細胞周期における動態変化、またクロマチン高次構造形成に重要なコヒーシン・コンデンシンのドメイン構造への関与といった、最新の話題へと展開した。私を含めて聴衆は、空腹感も忘れ、博士の話術、スライドにグイグイと引き込まれていった。口頭発表の後の質疑応答セッションも非常に盛り上がり、10人以上の聴衆から、熱い質問があった。前島博士はその一つ一つの質問に、丁寧かつ的確に回答され、セッション終了時には、私自身はサイエンスでお腹が満たされた気さえした。このように、今年のフォーラムを大盛況のうちに閉じることができたことは、世話人の一人として大きな喜びであった。前島博士及びたくさんの聴衆の皆さんに心から感謝の意を表しつつ、今年度フォーラムの報告とする。

参加者からいただいた感想

新海 創也(理化学研究所 生命機能科学研究センター 発生動態研究チーム 研究員)

2018年11月28日、3日間にわたる第41回日本分子生物学会年会がパシフィコ横浜で幕を開けた。初日ということで、会場を歩いていると、至るところで活発な議論が生まれる独特の雰囲気のなか、事前のタイムテーブルでチェックしていたフォーラムに参加した。主催が大隅正子理事長のIIRSということは後で知ることになったのであるが、広島大学の登田隆先生、千葉大学川本先生をオーガナイザーに、生命科学における可視化技術を使った最先端研究を聴けるフォーラムとのこと、今年の演者は国立遺伝学研究所の前島一博先生ということで、演題は「細胞の中のクロマチンの動きを見る」であった。近年の染色体研究では次世代シーケンサーを使って、ゲノム構造を調べる研究が世界的に興隆してきている。そこではホルムアルデヒド処理のため細胞を固定化する必要があるのだが、前島先生の演題は、方法としてその時流とは一線を画しつつも、生きている状態での核の中のクロマチンがどうなっているのかという基本的な問いに向かっており、基礎科学としてエキサイティングな話が聴けるはず、ということで会場に足を運んだ。

教科書的には、数珠つなぎになったヌクレオソーム繊維が30-nm繊維という高次構造を形成し、核内DNAの高度な折り畳みに寄与している、ということが書かれている。講演は、そのような通説に疑問を投げかけるところから始まった。X線散乱を使った前島先生の仕事によると、生きている細胞内の塩濃度に近い状態でのヌクレオソーム繊維は30-nm繊維を形成せず、不規則な折り畳み状態であるとのこと。特に正電荷のマグネシウムイオンの濃度が本質的に寄与しており、細胞周期における染色体凝縮・脱凝縮過程で、ATPレベルに応じたマグネシウムイオン濃度変化を生細胞イメージングした結果を紹介してくれた。この話を聞くだけでも、通説を覆して自然の真実に一歩近づくことができる、エキサイティングなサイエンスの一端を味わうことができた。

そして、話は本題である生きている細胞の中でのクロマチンを直接観察するという話題に移った。そこでは、核内ヌクレオソームを一分子観察するためのラベル化方法と斜光照明顕微鏡システムを導入し、核内ヌクレオソームがブラウン運動のようにゆらゆらと動いている様子を紹介してくれた。さらに、超解像顕微鏡システムによって見えてきた、200ナノメートルサイズのクロマチンドメインの存在であったり、そのドメイン構造のなかで拘束されたヌクレオソームの協調的な動きの最先端の研究成果を説明してくれた。

近年のゲノム構造研究では1-Mbサイズ以下の特徴的なゲノム領域の存在が示唆されており、前島先生が観察されている200ナノメートル程度のクロマチンドメインとの関連性が気になるところである。それよりもまず驚くべきことは、数百ナノメートルサイズのコンパクトなクロマチンドメイン内に、数個の遺伝子をコードしているゲノム領域が区画されているという自然の仕組みだ。近い将来、シーケンス技術とラベル化技術だけでなく、可視化技術の発展の先には、生きている細胞の中のゲノム構造や転写調節の仕組みが明らかになってくるのだろう、と思いを馳せる夜のフォーラムであった。

▲ページtopへ
<< お知らせ一覧へ戻る