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第43回日本分子生物学会年会 MBSJ 2020 フォーラム (Zoomウェビナー)のご報告

1F-02 細胞内膜交通の超高時空間分解能ライブイメージング

Live imaging of intracellular membrane traffic at
ultrahigh-spatiotemporal resolution

2020年12月2日(水)、第43回日本分子生物学会年会において、綜合画像研究支援が企画しましたフォーラムを以下のように開催しましたので報告します。

演  者 中野明彦 理化学研究所・光量子工学研究センター副センター長
日  時 令和2年12月2日(水曜日)18:30〜20:00
Webinar開催(Ch 02 チャンネル)
オーガナイザー 登田 隆(広島大学大学院統合生命科学研究科・広島健康長寿研究拠点 (HiHA) 特任教授/認定NPO法人綜合画像研究支援 理事)
川本 進(千葉大学名誉教授/認定NPO法人綜合画像研究支援 理事)
共  催 認定NPO法人綜合画像研究支援 (IIRS)

プログラム

18:30〜18:35 趣旨説明
登田 隆(広島大学大学院統合生命科学研究科・広島健康長寿研究拠点 (HiHA)特任教授・認定NPO法人綜合画像研究支援)
18:35〜19:35 細胞内膜交通の超高時空間分解能ライブイメージング
中野明彦(理化学研究所・光量子工学研究センター副センター長)
19:35〜20:00 総合討論とまとめ
川本 進(千葉大学名誉教授・認定NPO法人綜合画像研究支援)

フォーラム報告

登田 隆(広島大学大学院統合生命科学研究科・広島健康長寿研究拠点 (HiHA)・認定NPO法人綜合画像研究支援)

コロナ禍のためWebinar開催となった第43回分子生物学会年会フォーラムは、午後6時30分開催という遅い時間帯にもかかわらず、約100名の研究者が日本全国からオンライン参加するという非常に関心度の高いイベントとなった。演者である中野明彦先生(理化学研究所、光量子工学研究センター)は、これまで40年間にわたり、細胞内膜交通・タンパク質輸送の分野を文字通り切り開き牽引してきた日本を代表する国際的研究者である。まず当世話人(登田)と中野博士の個人的つながりについて触れる。今を去る1980年代半ば、中野博士と私はアメリカの西部と東部でそれぞれ博士研究員として研究に励んでいた。当時中野博士は、後(2013年)に「細胞内の主要な輸送システムである小胞輸送の制御機構の発見」によりノーベル生理学・医学賞を受賞することになるRandy Schekman 博士の研究室に留学されており、酵母を用いた細胞内膜交通・タンパク質輸送分野の最先端を疾走されていた。私にとって幸運だったのは、中野博士とはGTP結合タンパク質の機能解明という共通の研究テーマがあり、それが縁で知己を得ることができたことであり、現在に至っている。その後、中野博士は東京大学にて、講師、助教授、教授と昇進され、1997年からは理化学研究所でも研究室を運営された。現在は東京大学の研究室は閉じ、理化学研究所専任である。

中野博士による本講演は、ご自分の研究者人生の来し方から始まり、最先端可視化技術を用いた未発表の最新の結果まで、1時間を越える大熱演であった。中野博士は、分子遺伝学が中心であった細胞内膜交通・タンパク質輸送分野に、蛍光タンパク質GFPを用いた分子可視化技術という革命的ともいえる細胞生物学的手法を導入され、それまで謎であった現象を蛍光顕微鏡下で、次々と解き明かしてこられた。特筆すべきことは、アカデミア以外の企業・団体(YOKOGAWA、HITACHI、NHK)からの協力を得て、ご自身が新型蛍光顕微鏡を開発されたことであり、IIRSとしても非常に関心のある点である。本講演で特に印象的だったのは、自らが開発された蛍光顕微鏡を用いて、当該分野で論争されていたゴルジ体内でのタンパク質輸送に関する2つの仮説(「小胞体輸送モデル」と「槽成熟モデル」)のどちらが正しいか決着をつけたことである:ゴルジ体内の槽がダイナミックにその形状・性状を変化させることを世界で初めて可視化し、「槽成熟モデル」が正解であることを証明した。この結果は、現在分子細胞生物学の教科書にも記述されている記念碑的業績である。

ご講演の中盤から後半にかけては、現在進行中の研究に言及され、トークはますますヒートアップした。ゴルジ体が小胞体上の特別な部位(ER exit site=ERES)からどのように形成されるか、さらに当該分野で未だその実態が謎であるトランスゴルジネットワーク(trans-Golgi network=TGN、ゴルジ層板のトランス槽側に存在する網目状の構造体)についての生細胞内での詳細な動態を、beautifulとしか言いようのないライヴイメージングで示された。蛍光顕微鏡のご自身による開発もますます進展しており、現在は超解像蛍光顕微鏡(2014年、ノーベル化学賞授与対象)をさらに進化・深化させ、超解像度かつライヴ観察が可能となる新型顕微鏡(SCLIM2)開発の話題も提供していただいた。講演後の質疑応答も活発で、聴衆から多数質問が発せられたが、中野博士は一つ一つ熱心かつ丁寧に回答された。オンラインとはいえ、まるで生の会場にいるような大変な盛り上がりのうちに本フォーラムを終えることができたのは、世話人として大きな喜びであり、中野博士、また参加していただいた多数の聴衆の皆さんに感謝の意を表しつつ、令和2年度の分子生物学会年会フォーラムの報告とする。

(文責、登田 隆)

オンラインで参加された先生方。左から、中野 明彦先生、登田 隆先生、川本 進先生

参加者からのご感想

戸島拓郎(理化学研究所 光量子工学研究センター 生細胞超解像イメージング研究チーム 上級研究員)

2020年12月2日より3日間にわたって行われた第43回日本分子生物学会年会は、新型コロナウイルス感染症流行のため、オンラインでの開催となった。オンラインとはいえ、連日延べ4000名以上が参加し、シンポジウムやワークショップ等のセッションが約20チャンネルを使って同時進行するという大規模なものであった。オンライン開催ということで、聴衆の顔が見えず、質疑応答はチャット機能を介して行われるなど、通常の対面の学会とはかなり勝手が違うものであったが、各セッションでは活発な議論が繰り広げられていた。

本フォーラムは初日の夜(18:30−20:00)のセッションで、綜合画像研究支援(IIRS)との共催により行われた。演者は、私が所属する研究室(理化学研究所光量子工学研究センター生細胞超解像イメージング研究チーム)を主宰する中野明彦チームリーダーであった。中野先生は私にとって直属の上司なので、研究内容についてはもちろん熟知しているつもりではあるが、普段から顔を合わせていても、ゆっくりと話を聞く機会は案外少ないもので、今日は何を話してくれるのかなと、PCの前でセッションの開始を楽しみに待った。

講演内容は、約40年にわたる中野先生のこれまでの研究者人生の歩みを、膜交通(membrane traffic)研究や顕微鏡技術の発展の歴史と共に振り返りつつ、その歴史の中で中野先生が挙げてきた数々の輝かしい研究成果を、最新の未発表データまで含めて紹介してゆくものであった。オーガナイザーの登田隆先生や、ノーベル賞受賞者の大隅良典先生との個人的エピソードなども交えながら、非常にリラックスした雰囲気の中で講演は進んだ。本大会の参加者においては中野先生のお名前を知らない人はいないと思うが、分野外の人であっても非常に分かり易く楽しめる講演であったと思う。以下に講演内容を簡単に紹介する。

中野先生は、1980年に東京大学理学系研究科生物化学専攻を修了(理学博士)された後、国立予防衛生研究所(現在の国立感染症研究所)在籍中に、当時まだ黎明期であった膜交通研究を開始された。当初は動物細胞を使った分泌研究をされていたが、Randy Scheckman(2013年ノーベル賞受賞)研究室への米国留学を機に、酵母細胞を用いた研究へとシフトされた。Scheckman研では酵母sec変異株の一つSec12の解析から、さらにはそのサプレッサーとして低分子量GTPaseであるSar1を発見するなどの成果を挙げられた。その後帰国し、1997年に理化学研究所主任研究員、2003年に東京大学理学系研究科教授として研究室を主宰されて以降も、現在まで膜交通研究の第一人者として精力的に研究を続けられている。

研究開始初期の頃は生化学的・遺伝学的なアプローチによる研究が主体であったが、理研に着任された1997年頃、生命科学分野にGFPの発見という革命が起き、生きた細胞の中で膜交通現象を直接見たい、と中野先生も強く思うようになる。しかし当時の技術では、細胞内を高速で動き回る直径100 nm以下の輸送小胞を追跡できるほどの十分な時空間分解能を持った光学顕微鏡は勿論存在していなかった。しかし、理研では異分野交流が盛んで、ある時物理系研究者より、「顕微鏡が無いなら自分でつくればいいじゃない」と言われたことをきっかけに、顕微鏡開発の世界へのめり込んでゆく。NEDOの支援を受けて、横河電機、NHK、日立国際電気との共同開発により、2002年、非常に高い時空間分解能で生細胞の4次元計測を可能にするSCLIM(Super resolution confocal live imaging microscopy)のプロトタイプをついに完成させた。

この顕微鏡システムを手にした中野先生は、その当時の膜交通分野において最大の論争の一つであった、ゴルジ体を通過する積荷タンパク質輸送の問題に真っ先に取り組むことにした。これは、複数の槽(シス、メディアル、トランス)に区画化されたゴルジ体の中を、積荷タンパク質がどうやって通過して行くのか、という問題で、積荷が小さな輸送小胞に乗ってゴルジ槽間を順行性(シス→トランス)に受け渡されてゆくとする「小胞輸送モデル」と、積荷は単一の槽内に留まったまま動かず、各槽のアイデンティティを決める糖転移酵素などの常在タンパク質群の方が逆行性(トランス→シス)に運ばれるとする「槽成熟モデル」のどちらが正しいのか、という論争である。中野先生は、SCLIMによって生きた酵母細胞のゴルジ体を多色経時観察し、単一の槽の性質がシス→メディアル→トランスへと徐々に変化していくことを発見した。この現象は、槽成熟モデルが正しいことを明確に指示している。「百聞は一見に如かず」とはまさにこのことで、遺伝学や生化学的手法では長年決着がつかなかった難題を、たった一つの動画により、いとも簡単に証明してしまったのである(2006年Nature誌に発表)。その後も、小胞体からゴルジ体への積荷輸送様式について、ゴルジ体シス槽が小胞体上のER exit siteに一過性に接触することで積荷を受け取ること(Hug-and-kiss actionと名付けて2014年Nature Communication誌に発表)など、教科書に描かれた膜交通機構のモデル図を書き換えるような発見を重ねてきた。観察対象も酵母細胞のみならず、植物細胞や動物細胞、さらに今では神経細胞にまでもその範囲を広げている。最近では、生物種を跨いだ比較観察より、ゴルジ体とそれに隣接したトランスゴルジ網の出自の違いや機能的・構造的な違いを明確にしつつあり、これまで一体として考えられていた両者を別個のオルガネラとして定義し直す必要性を提案している。

SCLIMのさらなる高性能化も推進しており、現在では空間分解能70 nm程度、時間分解能毎秒20立体という究極のスペックを持つSCLIM2Mが完成している。SCLIM2Mでは、実際にゴルジ体の周辺を高速で動き回る直径約100 nm程度の小胞が多数観察されており、中野先生が約20年前、顕微鏡開発に取り組み始めた当初に抱かれた「輸送小胞の動きが見たい」という夢がまさに今、現実のものとなりつつある。

講演を聞き終えての第一の感想としては、中野先生の研究者としての歴史は、まさに細胞生物学と生細胞イメージング技術の進歩の歴史そのものであって、両分野の黎明期から現在に至るまで、その劇的な発展を担う大きな駆動力として中野先生が重要な役割を果たされてきたことを改めて認識できた。研究にまつわる様々なエピソードも多く話して頂いたので、若手研究者にとっては、研究者のロールモデルとして非常に参考になったと思う。中野先生の語り口からもそのお人柄が滲み出るような、和やかで非常に楽しく有意義な時間であった。できることであれば対面で拝聴したかったというのが、多くの聴衆の気持ちであったことは間違いないであろう。質疑も、オンラインチャット機能で書き込むという難しい方式であるにも関わらず、制限時間一杯まで途切れることなく続いた。本大会の大会長である上村匡先生からの、「SCLIM像を元に過去の電顕像を見直すことで何か新しいものが見えてくることがあるでしょうか?」という趣旨の質問は、高速超解像イメージングが今後の生命科学においてさらに多くのパラダイムシフトを引き起こすであろうことを予言するかのようで、非常に意味深いものであった。個人的には、現役の中野研メンバーの一員として、今後もライブイメージングを基軸とした膜交通研究の推進に全力を尽くしたいという思いを新たにした。

最後に、登田先生がセッションの締めくくりの言葉としておっしゃったように、コロナ禍が一刻も早く収束し、対面でこのような講演を聞くことができる世の中が戻ってくることを心から祈念しつつ、筆をおくことにする。

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